はじめに
「これだけ腰が痛むのにどうして動け動けって言われなければならないの?」と入院・外来患者さんに関わらずよく尋ねられます。当然のことながら腰の痛みが強い患者さんからしたら非常に切実で納得しがたい疑問だと思います。なにせ動くと痛いのですから・・・。
「痛みがあってもできるだけ動いた方がいいですよ。」
こんなことお医者さんをはじめとした医療職に言われたといってツラそうにしている患者さんって本当に多くおられます。かくいう私もこのような患者さんに動いたほうが良いかを尋ねられると「動ける範囲で動いてください」とお願いします。
なぜこぞってこのように医療職はお答えするのかをお話していきたいと思います。
痛みがあってもできる範囲で動いた方がいい理由って?
もちろんなぜ動きたくないほどの腰痛が生じているのか?というところも問題になるのですが動かないことのデメリットは数多くあるのです。
たとえば関節が硬くなってしまう。筋力が弱くなってしまう。持久力が下がってしまう。起立性低血圧が生じてしまう。痛みがさらに悪化したり新たな痛みが生じてしまう。そして患者さんをみていていち番よくないなと思うのが精神的に落ち込んでしまうといった状況です。
これらの症状をまとめて「廃用症候群」と呼んだりするのですがこれからこの内容にについてみていきたいと思います。
関節が硬くなってしまう
動かないことによって関節は硬くなることを想像すること難しくないと思います。動かない期間が長くなるほど筋肉は短くなってしまい同時に関節包や靭帯などの動きが悪くなり動かなくなってしまいます。特に困るのが関節はいち度硬くなってしまうとその程度によりますが再び動きを取り戻すためにはかなりの時間と努力が必要になってしまいます。したがって関節が硬くなってしまう前に関節が硬くなってしまうことを予防してあげる必要があるのです。
筋力が弱くなってしまう
動かないことによって当然のことながら力も弱くなってしまいます。いち日動かないだけで毎日3%程度ずつ筋力は低下してしまいます。
筋肉も一度力が弱くなってしまうと再び力を取り戻すのに時間がかかります。筋肉は細い筋線維が束になってできている組織になりますが筋肉が痩せてしまうとその太さを取り戻すのに最低2〜3ヶ月必要です。高齢になってしまうとさらに時間を要します。したがってカラダの関節と同様に筋力についても最初から力を落とさないようにする必要があるのです。
持久力が下がってしまう
持久力というと筋肉を続けて動かせる能力をイメージされるかと思いますがこれに加え血液を循環させる機能や呼吸機能の低下も含まれるなど様々な要素が含まれます。いずれにしてもこれらも一度機能が低下すると回復させるに相当な時間と努力が必要になります。
さらに痛みが悪化してしまう
たとえば関節痛の生じている原因が関節の変形が原因であった場合、関節周囲の筋力が低下することでより関節にかかる負担が大きくなり関節にかかる負担が大きくなってしまい疼痛が出てしまうことが考えられます。また、筋力が低下してしまうことで姿勢やカラダの使い方が変わり関節に負担がかかり痛みが悪化したり新たに痛みが出てしまうこともあります。
これは筋力の低下や関節の痛みが低下することまた血流が悪くなることで痛みを感じさせる物質が放出されることが原因になるのですが、いずれにしても活動量が低下して廃用がすすんでしまうことで痛みを助長してしまう例は本当によくみられます。
起立性低血圧がでやすくなる
起立性低血圧とはたとえば寝ている状態から座ったり立ったりするときなど姿勢の変化により血圧が一時的低下してしまうことをいいます。あなたもカゼなどで長期間臥床状態にあったときに急に起き上がるとこのような経験をされたことがあるかもしれません。この起立性低血圧の恐ろしいところが血圧が低下しふらついたことにより姿勢を制御できずに転倒し骨折など受傷するケースです。この起立性低血圧についても長期の横になっている期間を少なくすることで防げる症状になります。
精神的に落ち込んでしまう
これも腰痛に関わらず体調を崩したときなどに経験されたことがあるのではないでしょうか。長期間動かないでいることにより精神的も活気が乏しくなってしまうケースです。患者さんをみていてもリハビリが始まって普段の生活でも動けるようになりお話される量が増えたりネガティブな考え方が改善する方は本当に多くおられます。精神的に落ち込んでしまいこれまでにご紹介したような他の廃用性症候群も合併してくるようなケースもよく見られます。
逆に安静にしていた方がいい場合って?
ただし腰の痛みでも実際に安静にしておく方が良い場合もあります。どのようなケースは安静にしておく必要があるのかをお話していきます。
受傷した直後
大人になってからあまり経験していないかもしれませんが、走っていてつまずいて派手にこけてしまいカラダ中打ち付けてしまったとき打ち付けた部分が腫れ上がったり熱を持ったりして冷やした経験は誰にでもあると思います。
この時期は体が損傷した組織を修復しようとしている時期になりますのでこの時期にカラダの声に反して体を無理に動かしてしまうと余計に痛みが悪化してしまい怪我の治りが悪くなったり最悪いつまでたっても炎症が続いたりしてしまう原因になりますので受傷した直後などは動かないように安静を心がけてください。
体調が優れないとき
特にご高齢の方がこのときに無理して動いてしまうと転倒し骨折するような大怪我をされる可能性があります。この様な日はご家族や医療職といった周りにいる人の意見を聞きながらひと人で無理して動かないようにしてください。
医師から安静にしているように指示があるとき
医師は病気のプロフェッショナルなので動いて良いかどうか自分自身では判断に悩むときは必ず医師の意見を聞いてみてください。客観的に動いて良いかどうかを判断にしてくださることでしょう。
まとめ
実際私たち理学療法士が手術後の患者さんが入院している急性期病棟へ配置された場合、わずかな点数ではありますが配置加算が付きます。わざわざ国も加算をつけてまで理学療法士を配置する理由はこれらまでご紹介したような廃用症候群を減らす狙いがあるためです。
動かないことによるデメリットをご紹介してきましたが腰の痛みがあっても、もし可能であれば少しずつ痛みを感じにくい方法を探りながら負担の少ない動作から始めることで痛みの改善にも繋がるかもしれません。
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