はじめに
これから介護予防についてお話ししていきたいと思うんですが、老年症候群やフレイル っていう言葉を聞いたことがある方は、どれくらいおられますでしょうか?
この老年症候群や特にフレイルについて言葉は聞いたことはあっても詳細について理解されていない方もおられるかもしれません。
これからわかりやすくお話しして行きます。
死因と要介護要因
介護予防でいつも大切だなと思うのが、死因と要介護要因が大きく違うということです。
この死因と要介護要因を比較した上で、なぜ私たちセラピストが要介護要因に着目していく必要があるのかということについてお話していきたいとおもいます。
死因
まずは日本人の死因の順番です。
- 1位:悪性新生物
- 2位:心疾患
- 3位:肺炎
- 4位:脳血管疾患
- 5位:不慮の事故
- 6位:老衰
- 7位:自殺
*(H23厚生労働省)
1位が悪性新生物、ガンですね。2位が心筋梗塞などの心疾患、3位が肺炎、4位は脳血管疾患、5位が不慮の事故 以降、老衰、自殺 と続いています。
自殺が7位に入ってきているのに個人的には驚きましたが昔からこんなもんだったんでしょうか。
要介護原因
続いて要介護原因です。
- 1位:脳血管疾患
- 2位:認知症
- 3位:高齢による衰弱(体力低下)
- 4位:関節疾患(関節痛)
- 5位:骨折・転倒
- 6位:心疾患
- 7位:パーキンソン病
* 要介護要因(H22厚生労働省)
次に介護が必要になる要因を見ていきます。第1位は脳血管疾患 2位が認知症 3位が高齢による衰弱、4位が関節疾患、5位が骨折・転倒 以降、心疾患、パーキンソン病と続きます。
先程の死因と、この要介護となる原因を比較すると順位や原因となる内容が大きく異なっていることがわかるかと思います。
特に注目すべきなのが要介護要因の第2位〜第5位です。これは死因としては、全く上がっていません。
この要介護要因こそが老年症候群と言われるものになります。
この老年症候群こそ介護予防のために重要な鍵となってきます。
このように死因と要介護要因が異なる以上、寿命を延ばす方法と元気に動ける期間である、健康寿命を延ばす方法論は違ってくるということが言えるということです。
着目すべきは要介護要因
このスライドの表を見ていただきたいのですが、青い棒グラフは平均寿命です。グラフの中に書かれている通り、男性でおよそ80歳、女性で86歳です。
そして、下の赤い棒グラフは日常生活に制限のない期間、すなわち健康寿命を表しています。
この健康寿命は男性で70.4歳、女性で73.6歳です。赤いグラフの横にある赤い矢印の期間が、日常生活に制限のある期間、すなわち不健康期間を表します。
男性では9.13年、女性では12.68年と言われています。
このグラフから、いくら平均寿命が長くても、同じように健康寿命も長くなければ、介護が必要な生活期間が長くなるだけである、という見方ができると思います。
ただの長寿ではなく、健康長寿を目指す必要があるということ。そのためには、ADLに障害のない期間を延ばしていく必要があります。
私たちセラピストは疾病対策ではなく、この不健康寿命の要因となる要介護要因、すなわち老年症候群の予防・改善に着目していく必要があると言えます。
そもそも老年症候群の意味って?
老年症候群とは75歳以上のいわゆる後期高齢者に多くみられます。
この老年症候群の定義は、
老年期に多い臨床徴候であって種々の原因で起こるが原因が何であるかを問わず、その徴候そのものに対する対処(対処療法的なアプローチ)が必要なものを老年症候群と言います。
代表的な老年症候群としては誤嚥、転倒、認知症、尿流障害などがあげられる。
引用)大内尉義他:標準理学療法・作業療法学 老年学
上記以外にも
- 腰痛
- サルコペニア
- 低栄養
- 嚥下障害
- 褥瘡
- 脱水
など基本的に高齢期に見られやすい症状を老年症候群といいます。しかし定義は文献によってもマチマチです。
ただ大まかにこれからご紹介する3つの特徴は共通して言われることが多いようです。
老年症候群の3つの特徴
- 明確な疾病ではない
- 症状が致命的ではない。
- 日常生活への障害が初期には小さい。
これら3項目を掘り下げてみていきたいと思います。
明確な疾病でない
老年症候群は明確な定義が確立されていないのが現状です。
大まかにいうとサルコペニア(筋肉減少症)や認知症、転倒そして失禁など老化による機能低下と場合によって色んな疾患が重複することで日常生活活動が低下する状態が老年症候群です。
重要なことは老年症候群は明確な疾患ではないということです。
症状が致命的ではない命に関わるほどの症状ではない
2つ目は症状が致命的ではない命に関わるほどの症状ではないことです。
ですので「普段の生活を送る上での不具合とされやすい。」ということが2つ目の特徴になります。
日常生活の障害が初期に小さい
3つ目の特徴として初期の段階では日常生活への障害が大きくない、小さいがために高齢者自身の自覚が少ないことが3つ目の特徴としてあげられます。
フレイル
ここまでお話ししてきた“老年症候群”に体や精神がむしばまれていくと最近よく耳にするようになってきた言葉であるフレイルとなっていきます。フレイルとは虚弱を指す意味です。日本老年医学会が「高齢になって筋力や活力が衰えた段階のこと」をフレイルと2014年に定義しました。
この「フレイル」は虚弱や老衰などを意味する英語「frailty(フレイルティ-)」から来ていて健康と病気の「中間的な段階」で75歳以上の多くはこの段階を経て要介護状態に陥ります。したがって老年症候群の状態からさらに身心機能が低下するとフレイル(虚弱高齢者)となります。
このフレイルになると転倒や、肺炎などのちょっとしたきっかけで“要介護状態”に陥りやすいことが知られています。
したがって、この“フレイル”を如何に予防、克服するかが要介護状態に陥らずにいられるかのカギとなっていきます。
このフレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な運動や食事などの介入をすることにより生活機能の維持・向上を図り要介護状態に陥るのを防ぐ可能性があると期待されています。
フレイルの判定基準
フレイルの基準には、さまざまなものがありますがこのFriedが提唱したものが用いられることが多いです。
- 体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
- 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
- 歩行速度の低下
- 握力の低下
- 身体活動量の低下
Friedの基準には上記の5項目があり3つ以上該当するとフレイル、1つまたは2つだけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。
老年症候群やフレイルに対する運動の効果
運動の効果についてですが、介護予防のためにはセラピストの働きかけが重要であることが最近の研究でも示されています。
例えば、転倒・骨折予防に対しても、運動の効果が示されています。
筋力トレーニングやバランス練習、歩行などの複合的な運動プログラムを実施することによって、転倒発生を防ぎ、その結果、骨折の発生も減少させるということが実証されています。
近年の報告では、転倒発生を抑制する結果、骨折の発生も運動によって減少させることができると報告されています。
適切な運動プログラムの実施は転倒・骨折の予防にも極めて有効であるということです。
痛みに対しても、運動の有効性が示されています。筋力トレーニングや有酸素運動などを行うことで、変形性膝関節症や股関節症を有する対象者の痛みを軽減することができるということがわかっています。
さらに重要なことは、痛みの軽減により生活機能も向上することが示されていますので、まさに痛みに対する運動の実施は、介護予防につながるといえます。
また呼吸機能に対する運動の有効性ですが、欧州の専門学会、COPDのリハビリに関するガイドラインでは、筋力トレーニングなどの運動が、息切れの改善のために効果的であるとして推奨されています。
呼吸機能が生活機能を低下させる要因は、息切れですから、運動によって呼吸機能低下に起因する生活機能低下を予防できると考えられます。
その他にもサルコペニア、尿失禁、認知機能などの改善にも、運動が効果的であると報告されています。
まとめ
老年症候群もフレイルという言葉も聞く機会は増えてきています。
いずれにしても老年症候群やフレイルの状態になると転倒や肺炎などのちょっとしたきっかけで要介護状態に陥りやすいため要介護状態に陥る前に予防することが非常に大切になるということです。
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