はじめに
慢性閉塞性肺疾患は喫煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患です。
慢性閉塞性肺疾患は英語でChronic Obstructive Pulmonary Diseaseといいこの頭文字をとってCOPDとも呼ばれます。
日本における慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)の患者さんはどんどん増え続けていて推定で530万人といわれています。
このCOPDは世界レベルでみても死亡原因の第4位となっており2020年には死因の第3位になると言われています。
これからこの病気の症状やリハビリの有効性などについてお話していきたいと思います。
COPDの有病率や症状って?
有病率
慢性閉塞性肺疾患の患者さんは現在の推計でも530万人の患者さんが日本におられるといわれています。
しかし実際にCOPDと診断されているのは22万人であり530万人のうち5%しか診断されていません。
また40歳以上の男女のうち8.6%がCOPDの疑いがあるといわれています。
症状
COPDは気流閉塞が起こり末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に作用することによりおこる進行性の疾患になります。
したがって呼吸機能検査では正常には改善することのない気流閉塞を示します。
また臨床的には徐々に生じる体動時の呼吸困難や慢性の咳、痰が症状としてみられます。
また呼吸の中で息を吸うとき(吸気)に息を吸うことはできても吐くこと(呼気)ができないのが特徴です。
したがって息を吐き切れないまま息を吸う(吸気)ことになるため呼吸が苦しくなってしまうという悪循環に陥るのです。
COPDの診断基準と検査やリハビリテーション以外の治療
CPODの診断基準や検査そして酸素療法や薬物療法についてお話します。
診断基準
診断基準は次のとおりです。
- 気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリで1秒率(FEV1/FVC)が70%未満
- 他の気流制限をきしうる疾患を除外すること
となっています。
参照)COPD診断と治療のためのガイドライン(日本呼吸器学会)
検査
- 胸部胸部レントゲン
- 血液検査
- 喀痰検査(グラム染色)
- 血液ガス分析
上記のような検査を中心に行います。
酸素療法
医師の考え方にもよりますが、
- 動脈血血中酸素濃度(SPO2):90%
- Pao2が60torr未満
の場合に実施します。
薬物療法
COPDの患者さんに用いられる薬物療法にはABCアプローチというものがあります。
これは抗生物質、気管支拡張薬、ステロイドの英単語の頭文字をとったものになります。
- A(antibiotics):抗生物質
- B(bronchodilator):気管支拡張薬
- C(corticosteroids):ステロイド
治療目標
薬物療法や次にご紹介する呼吸リハビリテーションの治療目標は次の通りです。
呼吸困難、咳痰に対する症状の緩和
将来の憎悪リスクの軽減:1秒量(FEV1.0)の低下、憎悪頻度
呼吸リハビリテーションについて
呼吸リハの効果
呼吸リハの効果は次のようなものがあります。
- 息切れの閾値を上げる
- 抑鬱(よくうつ)症状の改善
- 労作時息切れの改善
- 骨格筋機能の改善
呼吸リハビリテーションの流れ
初期評価(現在の運動能力を評価)
現在の運動能力や息切れの程度そしてADLやQOLを評価する必要があります。
運動能力検査としては、
- 6分間歩行
- シャトルウォーキングテスト
- 最大酸素摂取量(呼気ガス分析):自転車エルゴメーター、トレッドミル
- 筋力:大腿四頭筋力
- 呼吸筋力
などがあり
症状の評価(息切れ)としては
- 運動時のBorg Scale
- mMRCスケール
を利用します。
また動作能力(ADL)や生活の質(QOL)を数値化するために、
- 身体活動量:PAL
- SGRO
- NRADL
- CAT
- CRQ
- HADS
などが用いられます。
これらの評価バッテリーを用いることによってリハビリ開始時の運動能力・息切れの程度、動作能力や生活の質を評価します。
具体的なゴールの決定
リハビリの目的を明確にするためにゴール設定をする必要があります。
- 買い物に行ける
- 旅行に行ける
- 将棋をできるようになる
といったようにより具体的に決めます。
運動処方
運動能力を評価しFITTを決定し運動処方をする必要があります。
このFITTというのは、
- F:frequency リハビリの頻度 週に2回以上
- I:intensity 運動の強度
- T:time 運動時間
- T:type 下肢持久力運動が主体
最終評価(効果判定)
最終評価では初期評価で行った評価項目と同じものについて評価を行い呼吸リハビリ前後の効果をみます。
呼吸リハのプログラムについて
運動療法では、
- コンディショニング(リラクセーション、ストレッチング、呼吸介助法、胸郭可動域運動、呼吸法指導、排痰法、)
- 筋力トレーニング(下肢の持久力を向上させることや上下肢筋力の向上)
- 動作練習(日常生活動作など)
を中心に行います。
動作練習の中でも歩行動作練習は重要であり必須項目です。
ただ歩行動作を行うとすぐに息切れをしてしまうような患者さんの場合はエアロバイクのプログラムを取り入れるなどの工夫が必要です。
また筋肉の繊維にはtypeI(赤筋や遅筋)とtypeII(速筋)があるのですがCOPDの患者ではtypeⅠ筋線維が萎縮しやすい傾向にあります。
赤筋や遅筋の筋力が衰えると持久的な運動が行いにくくなります。
したがってtypeI繊維を狙った運動療法が必要になります。
まとめ
皆さんご存知のように日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。
それに伴いCOPDの患者さんもかなりの勢いで増えており、COPDと診断されていない潜在的な患者さんもおられる状況です。
少し動いただけでも息切れを感じる息が吐けないなどの症状を感じる方はいち度検査を受けられることをお勧めします。
最近は病院や診療所だけでなく役所が事業の一環として呼吸機能検査を行っているところもあります。
最寄の役所に尋ねてみるのも1つですよ。
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