はじめに
人工股関節全置換術(人工関節置換術)のことを英語でTotal Hip Arthroplastyといいその頭文字をとってTHAといいます。
股関節以外にも膝関節にも人工関節に置き換える手術が行われており日本では年間に約20万例以上行われています。
これから人工股骨頭全置換術の適応やその材質そして脱臼や緩み(loosening)の発生要因についてお話ししていきます。
そもそもTHAってどんな疾患が適応になるの?
適応疾患は主に変形性股関節症になります。
股関節の関節軟骨がすり減ってくると関節に痛みを感じて歩きにくくなります。
THAとは変形したり炎症を起こしている関節を取り除いて人工の関節に交換する手術になります。
THAの最大の目的は痛みの原因を全て取り除き日常生活の中で感じるツライ痛みから患者さんを解放することです。
したがってリハビリの目標は手術する以前の動作能力かそれ以上を目標にリハビリを行います。
人工股関節置換手術の適応
股関節の痛みがひどく日常生活に支障をきたす方が対象になりますがその中でも、
- 理学療法などのリハビリや薬によっても改善が認められない
- 関節炎の進行やその他の病気が認められる場合
これらの場合に適応となります。
人工関節の耐久年数はだいたい15〜20年程度と言われています。
耐久年数を過ぎた人工関節はとり換えることもできますが再手術が必要となります。
そのため高齢者にTHAは行われてきましたが最近では30代もしくは、それよりも若い方でも人工股関節置換手術を受ける患者さんが増えてきています。
参照)THA
手術からリハビリの流れ
手術の前日までに入院しレントゲンや血液検査などの検査を行います。
それらの検査に加えて術前の理学療法をはじめとしたリハビリを行う病院も増えています。
手術は全身麻酔下で行われます。
手術の時間は1~2時間程度で終わります。
手術をした当日から痛みの程度などを評価しながら理学療法士によるリハビリ介入が始まることが増えています。
翌日には車椅子乗車や立ち上がる練習、股関節を動かすリハビリが始まりその後、痛みの程度などを評価しながら歩行動作練習も実施してきます。
患者さんの経過にもよりますが手術を行った急性期病院での入院は2週間前後です。
そしてほとんどの患者さんが回復期リハビリテーション病棟へ転院されます。
手術前に歩くことができていた方は回復期リハビリテーション病棟を退院される頃には杖歩行あるいは杖なしでの歩行で退院される方がほとんどです。
回復期リハビリテーション病棟を退院後は定期的に外来受診を継続され必要性に応じてリハビリも続けます。
手術の影響なく日常生活を送れるようになるには術後から数ヶ月は必要になります。
THAの部品の種類や材質について紹介するよ!
次にTHAの部品や材質について少し詳しくみていきます。
THAの材質
- セラミック
- 金属
- ポリエチレン(プラスチック)
これらがよく使われる材質になります。
THAの部品
- カップ
- ライナー
- ステム
- ヘッド
主に上記の部品から構成されています。
これらの部品のことをインプラントといいます。
ヘッドには金属をライナーにはプラスチック(ポリエチレン)を用いられることが多いです。
次ではそれぞれの部品の詳細についてみていきます。
カップ
寛骨臼蓋に挿入する部品になります。
カップは骨との親和性のよいチタン合金でできたものがほとんどです。
以前は人工関節のカップは次にご紹介するライナーと一体化しているものがほとんどでソケットといわれていたこともありました。
ソケットだった頃は人工関節が壊れたときの入れ替え手術が必要な場合に受け皿である臼蓋側の骨を削ってしまう必要がありました。
現在のように一体型でなくなってからは、これも次でご紹介するのですが摩耗しやすいライナーだけ交換できるようになっています。
人工関節が摩耗して再手術を実施することになっても患者さんの骨を破壊しなくてもよいように工夫されているのです。
ライナー
カップの中に人間の軟骨の代わりをする部品であるライナーを挿入します。
材質は超高分子ポリエチレンというプラスチックでできたものが主流です。
ステム
人工股関節手術で大腿骨側にはステムという部品を挿入します。
人工股関節ステムの材質は強度の強いコバルト・クロム合金のものと骨との親和性のよいチタン合金があります。
ヘッド
人工股関節ステムの上には大腿骨頭の代わりになる球状のヘッドをかぶせます。
ヘッドの材質は強度と耐摩耗性を重視してコバルト・クロム合金のものがほとんどでしたがセラミック性のものが増えています。
THAの合併症について
THAの主な合併症である脱臼や緩みについて説明します。
THAの脱臼
THAの脱臼の発生頻度については多くの報告がありますが0.4~4.8%とされています。
THAの脱臼の原因
- コンポーネントの設置異常
- 残存した骨棘などによる骨盤と大腿骨の衝突
- ソケット辺縁部とステム頚部の衝突
- 軟部組織の緊張不足
- 外転筋群の機能不全もしくは筋力低下
- 大転子の癒合不全
- 脱臼肢位をとること
などがあげられます。
最後の脱臼姿位は手術の術式によって変わってくるため術式を含め脱臼姿位の確認は必ず行うようにしてください。
割合からみるTHAの脱臼
- Accidental type(type36%):転倒や患者がコンプライアンスを尊守できないために発症する脱臼。そのうちの約半数が術後6週以内の発生と早期脱臼が多い。
- Mal-position type(30%):人工関節の不適切な設置によって発症する脱臼。そのうち約70%が術後6週以内の発生と早期脱臼が多い。
- 殿筋機能不全type(21%):腰部脊柱管狭窄症などによる殿筋機能不全により発症する脱臼。脱臼発生時期に一定の傾向はない。
- progressive type(12%):人工関節の緩み沈み込みにより発症する脱臼。術後2年以上(平均13年)経過した遅発性脱臼が多い。
緩み(loosening)について
人工股関節特有の長期合併症として術後15~20年経過して発生するインプラントの緩み(loosening)があります。
緩みの主原因
関節面に用いられているライナーの超高分子ポリエチレンの磨耗粉に反応した患者さんの体からサイトカインやマクロファージなどが過剰反応することで骨が融解(ゆうかい)するため緩みが生じます。
また緩みは大腿骨側よりもカップ側におこりやすいのも特徴の1つです。
まとめ
THAの適応や手術からリハビリの流れ脱臼などの合併症について説明しました。
THAを実施することで股関節そのものの痛みからは解放されます。
しかし体調を崩したりするなどしてリハビリに積極的になれない患者さんもおられます。
リハビリができないとせっかく大変な思いをして手術を受けたのに筋力などが低下し廃用が進んでしまい以前よりも動作能力が低下してしまう患者さんもおられます。
したがってTHAを実施したあとにリハビリをしっかり行うことがとても大切になることは言うまでもありません。
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